ウェンレーティンの
野望編

第四十三章
蒼の戦士



テイファ:
ん…? なんだこのコーナーは。
マリア:
あ、テイファさん。今回本編が始まる前にお知らせがあるそうなんですよ。
テイファ:
何? お知らせだと?
キッド:
お、おい、まさか遂に連載打ち切りだとか言うんじゃ・・・。
マイケル:
そ・・・そんな馬鹿な!!
キッド:
こ、こんな半端なところで投げ出すのか!!
マイケル:
しかも主役であるはずの我々からスポットが外れたまま・・・
キッド&
マイケル:
そんなの納得できるか!!

   そんなの納得できません!!

マリア:
お、おお、落ち着いてくださいお二人とも〜。
キッド:
これが落ち着いてられるかよ!
テイファ:
おいおい。慌てんじゃねえよ。今回だってちゃんと本編はあるだろうが?
マイケル:
今回で最終回・・・などと言う事は。
マイク:
…?!
マリア:
ないです。大丈夫です。だから安心してください。(あせあせ)

*一同、ほっと息をつく。*

マイク:
ま…まったく…。君ら動揺しすぎだぜ?
テイファ:
いや、今お前もひそかに動揺してなかったか?
マイク:
さ…さて何の事やら?
マイケル:
それで…、打ち切りのお知らせではないとしたら何なのです?
マリア:
あ、はい。ええと…世界設定などに関する変更点が出来たそうで…。
ジョニー:
あとは専門用語集記事におけるお詫びと訂正、でござるか。
マリア:
はい〜。そうなんです〜
テイファ:
うあ、世界設定変更って途中からそれを敢行するのか!
マイケル:
専門用語集も10年やっているといろいろボロが出てきたと言うところですかね。
テイファ:
まぁいい。だらだらやってるわけにもいかねえんだ。さっさと始めてくれ。
マリア:
はい!



世界設定変更点

ミスリル鋼について



キッド:
ミスリル?何が変わるんだ?
ジョニー:
名称でござるな。
マイケル:
え?ミスリル…ではなくなるという事ですか?
ジョニー:
然り。
マリア:
今回の変更を持って今後この作品で登場したミスリルは、新たに

『メルタイト』と命名されるそうです☆

キッド:
メルタイト…?なんだって名前が変わるんだよ。
マイク:
あー…。元々ミスリルと言う鉱物は、J・R・R・トールキンの作品世界、『中つ国』のものだからな。
マイケル:
有名な「ホビットの冒険」や「指輪物語」などの舞台となる世界ですね。
テイファ:
ああ。本家のミスリルとこちらのではよくよく調べると相違点が多い。
マイク:
というより、全く別物なんだな。

本来ミスリルは銀色に輝き、鋼鉄よりも強い特徴を持つとある。

キッド:
ええと…こっちのミスリルは鮮やかな蒼色で、魔力を保有する性質があり、

マジックアイテムの製作には欠かせない…か。

マイケル:
本当に全く違いますね。
テイファ:
作者が架空の希少金属という事で、なにも考えずに名前だけ拝借した結果だな。
マリア:
国内外問わず様々なファンタジー作品において、

ミスリルと言う名はよく使われていましたからね〜。

マイク:
なるほどな。今後メルタイトと名付け、完全オリジナルの鉱物として位置づけられる訳か。
マリア:
はい〜☆




お詫びと訂正

専門用語集の間違いについて



キッド:
ああ…。知ってるぜ、酷い間違いがあったんだよな…。
マイケル:
ええ…。度し難い間違いでした…。
テイファ:
あー…。あれか。
マイケル:
ええ…。あれです。



原文
第五章
〜メンバー探しより〜
ナイト○イダー


昔、作者がハマッた海外ドラマ。

主人公マイケル・ナイト。そして彼の愛車の名がキッド。

ボタン一つでジャンプする機能、防弾、水上走行、自動走行など、

画期的な機能が満載されていた。

一番の目玉は喋ること。マイケルがいないときでも彼を守るために

自ら行動することが出来たまさにスーパーカー。

但し火器は装備されていなかった。




キッド:
ちくしょう…。これ、どーすんだよ。
マイケル:
心中察します。キッド。
マリア:
ええと…、何が間違いなんですか?
ジョニー:
愛車の名、でござるな。
マリア:
え、愛車の名って…キッドじゃないんですか?
ジョニー:
うむ。正しくは『Knight Industries Two Thousand』の略で『K.I.T.T』。カタカナ表記をすると『キット』となるでござる。
キッド:
*はぁ、とため息をつく*
マイク:
ははは。そりゃひでーや。
テイファ:
何しろ作者がこれを見ていたのは20年も前らしいからな。
聞き違って覚えていたんだろう。
ジョニー:
既に本編の用語集は訂正済みでござる。
テイファ:
訂正済みって言ったってこれじゃいい恥さらしだな。
マイケル:
ええ。同感です。
マリア:
ええと、と言うわけでお詫びして訂正させてもらいます。ごめんなさい。
マイク:
よし、次だな。



原文
第四章
〜ゴンザレスの遺産より〜
サムライサーベル


この物語では鎌倉時代に使われていた『太刀』ではなく、

室町時代以降に作られた『刀』をこう呼ぶ。

両手用の片刃剣で、西洋の『叩き斬る剣』に比べ切れ味は

非常に優れていたと言われている。

しかしその極限まで磨き上げられた薄い刃は大変脆く、

1人2人斬っただけでぽろぼろに刃こぼれするという弱点があった。




キッド:
サムライサーベル…。所謂ところの日本刀だよな。
マイク:
ああ。まぁこれについては完全な間違いって訳じゃないんだが。
マイケル:
と、言いますと?
テイファ:
問題の記述は刃が脆く、一人二人斬ればぼろぼろ刃こぼれするってところだな。
マリア:
本当は刃こぼれしないんですか。
ジョニー:
日本刀は従来大変強固な刃を持っているのでござるよ。
キッド:
なんだ、のっけから違うじゃねえか。
ジョニー:
例えば刃に拳銃を撃ち込んだ所、刃こぼれ一つせずに弾丸を両断したと言う話や、厚さ0.4mmの鉄板を両断したと言う逸話もあるでござる。
マイケル:
刃こぼれもせずって、魔法で強化されているわけでもないにも関らず、ですか。
テイファ:
ああ、その通り。故に史上最強の武器とも謳われている。
マリア:
凄いんですね〜。
キッド:
でよ、完全な間違いじゃないってのはどういうことなんだ?
ジョニー:
この解説文にあるような刀も大量生産の粗悪品として存在したらしい、という事でござるよ。
キッド:
あー、なるほどなー。
マイク:
脆いと言う話もあるし、何十人斬っても刃こぼれしないと言う話もある。どっちが正しいとも言えないってところだな。
テイファ:
一口に刀といってもピンからキリまである、って事だな。
マリア:
そう言う訳で解説文が修正されます。ごめんなさい。
マイケル:
まったく…。これでようやく本編へ移れますか。
マイク:
ところがどっこい、もう一つあるんだぜ?



原文
第二十七章
〜最後の山より〜
鏑矢
(かぶらや)


Y字形の鏃を持つ、特殊な矢。

見た目はごつくてとても殺傷力が高そうに見えるのだが、その使用用途は殺傷には無く、広大な土地においての合図に使われる。

この矢を空中に射ると鏃の刃先が空を切り、音を発しながら飛ぶ。

日本でも戦争などで宣戦布告の合図などに使われたという。




テイファ:
ああ、これな…。
マイク:
ああ。作者の知ったかぶりが大爆発したこれだ。
キッド:
んん?何が間違ってるんだ?
ジョニー:
鏑矢の構造でござるよ。音を発するのに鏃はなんら関係してござらん。
マイケル:
それはまた、酷い間違いですね。
テイファ:
正しくは鏃の根元に『鏑(かぶら)』という部品を取り付けた矢の事だ。この鏑が音を発する構造を持っているんだ。
マリア:
なるほど〜、またまたお詫びして訂正させてもらいます。ごめんなさい。
マイク:
作者が学生のころに初めて見たと言う鏑矢の絵では、確かに矢の鏃の形が普通の物と大きく異なっている。最初に目に付くのはわからんでもないがな。
テイファ:
それでもろくに調べないまま、思い込みだけで載せるのは問題だろ。
マイケル:
同感です。用語の解説の場で間違っているのですから始末が悪い。
キッド:
その上また俺らに詫びさせてんだからな…。
マイケル:
ええ、全くです。
マイク:
とりあえず、現段階で見つかっているのは以上らしい。
マリア:
あとは名称変更に伴い、ミスリル関連項目に修正が入ります〜。
テイファ:
やれやれ。…にしても今回は長すぎだろ、これ。
キッド:
ああ。じゃあそろそろ本編はじめようぜ。うだうだしてたら本編より長くなっちまう。
マリア:
はい〜。それでは本編、スタートです☆





 マイクは俺の位置からでは背を向け、アルバート卿は顔もヘルムに覆われているためその表情は見る事はできないが、

二人とも不敵な笑みを浮かべているのだろう。

 黄金のマイクと蒼きアルバート卿。

 互いに一歩も動かずに対峙していた。

 アルバート卿は鎧の感触を確かめるように、右手を開いたり閉じたりしている。

 そしてマイクに向き直ったと瞬間、アルバート卿はその場から忽然と消えた。

 否   

 予告無くマイクに飛びかかったのだ!!

 速い!

 アルバート卿は10メートルはある間合いをただ一歩、地を蹴っただけで詰めた。

 槍を左手にしたまま、右手の拳を突き出してマイクに突進する。

 直後、金属の衝突音があたりに響いた!


   ガギン   !!


 一体この場にいる何人がこの動きを捉えられていただろうか。

 そして衝突音を耳にした多くの者達がそちらに視線を向けた時、その光景を前に我が目を疑った。

 先程まで不敵な笑みを浮かべて立っていたマイクの姿はそこにはなく、かわりに右腕を突き出した姿勢のアルバート卿が立っている。

 その更に先、アルバート卿の視線の先にはアルバート卿の一撃を受けて無様に宙を舞うマイクの姿があった。

 その飛距離、軽く10メートルは超えるだろうか。

 そしてアルバート卿はマイクが地に落ちるのを待たず、更にマイクに向かい突進した。

 マイクが放物線を描く軌道を辿るのに対し、アルバート卿は直線的な動きで一気に駆け抜ける。

 そしてマイクが地に落ちるより早くマイクの落下地点へと到達し、落ちてくるマイクを蹴り上げた。

 

 なっ・・・なにい!?

 俺はその蹴り上げる姿に思わず目を見張った!!

 なんと可動範囲の広い鎧なのか!!

 アルバート卿が蹴り上げた右足は、彼の頭の高さを超えていた。

 地に付いている左足を軸に、ほぼ180度に近い角度まで蹴り上がっていたのだ!!

 そしてその蹴りは正確に足の甲で落ちてきたマイクを捉え、スーツアーマーに身を包んでいるマイクを難なく宙へと押し上げていた。

「っぉお!?」

 マイクは声をあげて上方へ投げ出される。

 その高さは3メートルに達しただろうか。

 頂点に達し、落下に転じるマイクに向かい、アルバート卿は間髪いれずに跳んだ。

 やはり槍ではなく、右手拳を突き出して天を突くが如くマイクに迫る!

   !!!」

 落下による加速と下から迫るアルバート卿との相対速度が更にアルバート卿の拳を重くする。

 

   ゴギ   !!

 

   おおぉぉおぉ   !!

 

 拳を突き出して天へと伸び上がったアルバート卿の姿が、地上10メートルを悠に超えた時辺りから割れんばかりの歓声が上がった。

 一方拳を受けたマイクの方は更なる高みへと投げ出されている。

 誰の目にも勝敗は明らかだった。

 

 普通死ぬ   

 

 鎧の上からとは言え、その鎧を着ている人間を高さ15メートルは突き上げる衝撃。

 その衝撃が拳と言う狭い一点に集約されて突き刺さったのだ。この時点で人間ならばその死は確定したようなものだろう。

 その上マイクはこの高さから落下するのだ。

 スーツアーマーという重装備でこの高さから落下すれば受身も取れまい。

 仮に取れたところでどれ程の衝撃を緩衝しえるのか。

 

 そう、誰もが思ったはずだ   

 

「な・・・なんてこった・・・。」

 あまりにも一瞬の出来事にキッドもマイケルも言葉を失ってただ呆然と宙に浮かぶマイクの姿を見上げるのみだ。

 もはや誰の目にもマイクの死は確実なものと映っていた。

 

    しかし。

 

 マイクがその軌道の頂点に達した時、マイクは事も無げに空中でひらりと一回転して身を翻し、着地体勢へと移った。

 その顔は最初にアルバート卿と対峙していた時と変わらず、不敵な笑みを浮かべたままだ。

 対するアルバート卿の表情は窺い知れないが、油断なくマイクに視線を向けたまま着地体勢をとっている。

 そう、アルバート卿は今の攻撃がその実マイクに殆どダメージを与えていない事を悟っていたのだ。

 両者は30メートルもの距離をあけ、平然と着地した。

 けろりとした顔で降り立ったマイクを目にして辺りは騒然となる。

「へへ・・こりゃ驚いた。」

 マイクはそう声をかけながらアルバート卿に向き直った。

「AAA程度の雑魚を想定していたが、こりゃなかなか面白いじゃないか。」

「くくく・・・。ははははは!

 対するアルバート卿は心底楽しそうに大声を上げて笑った。

「ほんの挨拶代わりではあったが、まさか全てを完璧に受け流してしまうとはな。さすがはSクラスと称されるだけの事はあると言う事か。」

 両者とも距離はそのままに互いを見据えながら油断なく構える。

 そう。両者にとって今のはほんの準備運動に過ぎない。

 戦いはこれからなのだ。

 

 辺りは騒然としていた。

 初っ端からあんな超人芸を見せ付けられればこうなるのも無理はなかろう。

「一体何がどうなってんだ・・・。」

「勇者マイクが一方的にやられているように見えましたが・・・。」

 キッドはポカンと口を開けてただただ唖然とし、マイケルもキッドのような間抜け面こそはしていないものの、心情は同じなのだろう。

「人って空を飛べるんですね・・・。」

 他の二人とはやや論点がずれた所で驚いているマリア。

 こいつ、マイクが殴られていたことさえ見えてなかったな?

「テイファ。もしかしてあなたには何が起きたか見えていたのですか・・?」

 ふと俺のほうに振り返ったマイケルは、冷静に超人二人を眺めている俺を見て声をかけてきた。

「まぁな。」

「む・・。」

 俺が簡潔にそう答えると、マイケルの目つきが一瞬鋭くなる。

「え?ちょ、アレが見えてたのか!?テイファ、何がどうなってたんだ!?」

 キッドも俺の声を聞き、慌てて振り向いてきた。

 見ればキッドもマイケルも完全にこちらに向き直り、俺の腕にしがみ付いたままのマリアも上目遣いで俺を見上げている。

 やれやれ、仕方ないやつらだな。

「マイクはな、敵の攻撃を食らって飛ばされたんじゃねぇ。奴は一旦あの攻撃を拳で受け止めながら衝撃を和らげたんだ。尚も殺しきれない衝撃には逆らわずに乗り、後ろへ飛ぶことでダメージを緩衝しやがった。派手に食らったように見えたかもしれんがダメージは全くないと見ていいだろう。」

「・・・なんつー出鱈目な。」

「キッド。驚くのはまだ早いようです。彼らはお互いまだほんの小手調べの段階のようだ・・。本番はこれからかと。」

「まじかよ!まったく・・・噂で聞く武勇伝と実際目にするのでは受ける衝撃がまるで違うな。」

「ええ・・・。これがSクラスの世界・・・。」

 二人の会話はここで途切れ、戦場のほうへと向き直った。

 マイクたちが再び動き出したのだ。

 

 視線を戻すとアルバート卿はどこから取り出したのやら、一振りの剣を手にしていた。

 一見、なんら装飾も施されていない無骨な剣でそれ自体に何らかの特別な力があるようには見えない。

 しかし先程は覇王の槍を手にしながら使用せずに闘っていた癖に、そちらを使わず改めてわざわざ取り出す代物だ。

 覇王の槍よりも強固な素材で打たれたものなのだろう。

 

 アルバート卿が先程の戦闘で手にしていた槍を使わず、わざわざ拳で攻めたのには理由がある。

 それは先程の戦闘でも見られたあの鎧が発揮した圧倒的な力にあるとみていい。

 蒼き鎧はそれそのものが武器とも言える性能を秘めているというのはよく語られる話だ。

 マイクの奴がうまく受け流してしまったので目立った威力は見せ付けられてはいないが、あの一撃には強固な鎧をも軽々と粉砕するだけの威力がこめられていた。

 覇王の槍はメルタイト鋼がふんだんに使われた強力な魔槍素体だが、前述の通りそれに込められた魔力は力場障壁を張るためだけのもので、特別な硬質化の術式はまだ施されていない。

 メルタイト鋼自体はさして硬度の高い金属とは言えず、あの鎧の力を持って力任せに突けば折れかねないと判断したのだろう。

 それが槍を使わなかった理由だ。

 アルバート卿は覇王の槍を武器としてではなく、力場障壁を纏うために活用しているに過ぎない。

 

「へへ。じゃあそろそろ本番を始めるか。」

 マイクは腰に装着しているポーチ型ウルバックに盾を収め、愛剣アテルグライドを片手で構える。

「俺を失望させるなよ?坊ちゃんよぉ!」

 マイクは口元を吊り上げて地を蹴った。


 金色に輝く一条の軌跡。

 それを動きとして捉えられたものが何人いただろうか。

 しかしそれを迎え撃つアルバート卿もまた、突進によってこれに対抗した。

 金色の軌跡と蒼い軌跡は互いが元々立っていた2点を結ぶ直線の、丁度中央地点で衝突した。

 剣と剣がぶつかり合う鈍い金属音が辺りに響く。

 中央でぶつかり合った両者は鍔迫り合いの体勢で停止していた。

 互いにギリギリと押し合いを続ける。

「有り得ん・・・!」

 鍔迫り合いの最中、アルバート卿は感嘆の声を上げた。

「生身でこの蒼き鎧の力に正面から当たり、拮抗するだと・・・!」

 両者の鍔迫り合いはアルバート卿の言う通り拮抗し、両者ともその場から動かない。

「へ、てめえこそ今の突進によく反応した。褒めてやるよ。」

 対するマイクはやはり口元を吊り上げたままだった。

 ぐっとマイクが力を込め、鍔迫り合うアルバート卿を弾く。

 両者共に一歩後退して一旦間合いを外し、即座にまた踏み込んで剣の応酬が始まった。

 

 剣対剣。

 その点だけで見るのならば極めてシンプルな戦闘だ。

 互いに相手の防御を切り崩して隙を誘い、そこへ必殺の一撃を叩き込むチャンスをうかがう。

 その攻撃を受けるのもまた、剣だ。

 剣一振りで攻守ともに担う極めて無骨な戦闘。

 しかしその剣戟の音の間隔が、通常のものよりも数倍の速さで繰り広げられている光景は、一般から見れば神がかった光景といえるだろう。

 

 剣とは主に敵を叩き斬る為の武器である。

 故に斬撃の軌跡は弧を描く。

 しかし通常であればその軌跡を一本の線として視認する事はまずないだろう。

 人がどれだけ早く剣を振るおうが、それは線ではなく動きとしてとらえられるからだ。

 しかしこの二人のそれはその域を脱していた。

 ここにいる多くの者の目には、両者の間に弧状の線が何条も描かれているように見えているだろう。

 その一つ一つは刹那の花。

 人の動体視力では視認すら難しいそれは、時折一本の線としてその軌跡を浮かび上がらせるのだ。

 

 視認も難しい域に達している二人の剣戟は、尚もその速度を早めて行った。

 二人とも決して出鱈目に振り回しているのではない。

 アルバート卿のそれは一閃一閃が、マイクを一撃の元に仕留めようと狙って繰り出される必殺の意思によるものだ。

 対するマイクはその一閃一閃を冷静に見据え、着実に受け流して行く。

 時折反撃とばかりに剣を振るうが、アルバート卿もこれを巧みに躱していた。

 攻勢はアルバート卿に傾いている。

 しかしアルバート卿は剣のみで打倒し得る敵ではないと判断を下したのだろう。

 剣戟のみによる攻撃をやめ、全身での攻勢に移る。

 足技や覇王の槍による牽制、体ごとぶつかって行く体当たりなども織り交ぜた本格的な攻勢だ。

 こうなると装備の上でマイクが圧倒的に不利と言えた。

 格闘能力においてアルバート卿の蒼の鎧の方が抜群の可動域を有しているためだ。

 にも関らず、両者の均衡は崩れない。

 時折距離を取り、再び激突する両者。

 剣と剣とがぶつかり合い、火花が散る。

 両者の間にはそうした火花の輝きが、さながら燃え盛る花火の如く無数に散る。

 その速度が人には到底到達出来ぬ域に達しているのならば、それを人は神業と称する。

 両者の剣戟の応酬はまさに神業と呼ばれるに相応しいものだろう。

「お、おいおいおいおい冗談だろ?!いったい何処まで速くなるんだ!?」

 神業の域から尚も両者の剣戟が速度を増した時、キッドは思わず声をあげていた。

 その声はまさにここで見ている者達の気持ちを代弁するものだろう。


 しかしその実、この神業の応酬もいまだ余興の域を出ていない事を知り得る者が、果たして何人いただろうか。



 

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