「くそ・・・仲間とはぐれちまったか・・・。」
俺は一人悪態をついた。まさか戦闘中に強制テレポートの魔法を食らうとは……。
俺の名はゴンザレス・ゴンゾー。トリスタン王国、いや世界最強の冒険者だ。
世界で2,3を争う冒険者であるマイクとジョニーの3人でここ、バズヌの塔に来ていた。
すでに数々の冒険で名を上げきり、富も名誉も数々の伝説の秘宝も持つ俺達が共通して欲しいもの。
・・・それは不老長寿。
マイクとジョニーはまだ若いが俺の歳は既に40を越え、日々肉体が衰えていくのを感じていた。
そんな折りにその情報は入ってきたのだ。
孤島にそびえ立つバズヌの塔。そこには伝説の不老長寿の薬が眠るというのだ。
バズヌの塔とは魔界と繋がる塔と言われており今まで行って帰ってきたものはいないと言われている。
そこで同じ目的を持った3人が集まったというわけだ。
マイクとジョニーの奴は大丈夫だろうな。リッチぐらい俺がいなくても倒せるだろう。
さて俺はどうするか・・・そう考えながら辺りの様子をうかがう。広い部屋のようだが辺りには窓が見あたらない。地下か?
物音は時折俺の鎧からなる金属音だけで全ての音を闇が吸収しているようにも思える。俺は立ち上がり前に進んでいった。
「ガシャ・・ガシャ・・。」
少し来るとすぐ木製の扉が見えた。扉の横の壁には石版が彫ってある。そこには古代文字でごちゃごちゃと何か書いてあった。
「なになに・・不老長寿薬保管庫・・・・。なに!?
」
着いた・・・。ここがそうか。俺は扉を慎重に開ける。そこには薬棚にぎっしり並んだ薬瓶とその前に立つ4本腕のデーモンの姿があった。
なるほど。あいつがガーディアン
って訳か。
《人間。合い言葉を言え。》
ガーディアンの野郎がデーモン語でそう話しかけてくる。無論、デーモン語も知る俺でも合い言葉はわからない。
「悪いな。俺は平和主義者じゃないんでな。力尽くで通して貰うつもりで来たのさ。」
《愚かな人間め・・・。諦めろ。今ならまだ許してや・・ぬ!》
「問答無用だああああ!!」
俺は気合を込めながら重さ軽く10sを越える伝説の超重量撲殺兵器、
雷神の鎚を振りかぶり、奴に躍り掛かった。
雷神の鎚は雷光を纏いながらうなりを上げる。そして奴の腕の一つにあたる。奴の腕はその不可に耐えきれずミリミリと音を立てながら折れた。
その折れた腕を雷光が包み込む。
《がああああああぁぁぁ!!おのれえええええい!!》
奴の腕は折れた形のまま炭と化していた。
しかしその刹那、奴に魔力が集中していく。
この規模の魔法は恐らくフレア
か・・。
次の瞬間、俺は岩をも溶かすはずの爆炎に包まれた。くっ・・さすがデーモン。呪文の詠唱が必要ないだけあって早いな。
それにこの熱量。周りの石材がどろどろ溶ける。俺の魔法結界
を持ってしても完全に遮断することは出来ない。
《この私に手傷を負わすとはなかなかの腕だが所詮は人間よ。》
奴は俺を殺った気でいるのだろう。だがまだだ。体に火傷を負いつつ炎の中から鎚を振るった。
炎を割って現れた俺に敵は驚愕した。当然そこに隙は出来る。俺は奴の右脇腹に思いっきり叩き込んだ。肉が潰れ骨が砕かれる。
そして雷光が発すると同時に肉の焼ける臭いが立ちこめる。奴は絶叫して倒れ込んだ。
倒れて呻いている相手に俺は容赦なく雷神の鎚を叩き込んだ。何度も何度も。奴が炭と化すまで。
「ふふふ。勝った。これで心おきなく飲めるというものだな。」
俺は兜を外すと手近な瓶を一つ取った。若さを手に入れたら・・・・俺ははやる思いを押さえることが出来なかった。
「あいつ等には悪いが先に頂くか。」
俺は瓶の蓋を開けた。これから起こる悪夢など知らずに。
ごっ・・ごっ・・・ごく・・・ぷはぁ!
俺は一気に飲み干した。味もなかなかナイスなオレンジ味だった。俺は肉体に起こるはずの変化を心待ちにした。そして変化が訪れたのだった。
「お・・おおお・・。おおおおおおおお!」
若さが・・俺の体に若さがみなぎってくる!肉体が充実し・・充実・・。あれ、おかしい。鎧が・・鎧がやけに重くなってくる。
突然鎧の重さが数倍に膨れ上がり、俺は支えきれずに地に倒れた。馬鹿な・・・罠・・だったの・・か?薄れゆく意識の中で俺は冷静さを欠いた自分を呪った・・・・。
・・・おい。起きろ。
あれからどれくらい経ったのだろうか。俺はその声に起こされて目を開けた。
見てみるとマイクとジョニーが妙な顔をしてこちらをじろじろ見ている。
「おお・・。おめーら無事だったんだな。不老長寿の薬は飲むな・・・。」
ジョニーとマイクは互いの顔を向け合い首を傾げている。当然だろう。俺の言い方が悪かったようだ。
俺は起き上がろうとしたが鎧が異様に重く、腕すら動かせない。くそ・・・。どうなっているんだ?
「お主は誰でござるか?」
突然、ジョニーの奴がそんなことを俺に訊いた。
「誰って俺はゴンザレスだが?」
何を言ってやがるんだ。呪いか何かで相当やつれたのか?
「・・・女
。ゴンザレスはむさ苦しく汗くさい筋肉だるまで更に禿かけた中年親父だぞ?それで化けたつもりか?」
は?い・・今なんて言った?
「娘
。ゴンザ殿をどこにやったでござるか?白状するでござるよ。」
へ?ちょっ・・・ちょっと待て
「しかしこの女どうやってこの鎧の中に入り込んだんだ?腕も動かせねえみたいなのにな。」
「てめえら!冗談はいいかげんにっ
・・・って・・・」
俺は自分の声の異変に気が付いた。異様に甲高い。待て・・・待ってくれよ・・。
「うーむ。この顔の青さ加減から見るに当人のようでござるな。」
「ん?当人ってこの女がゴンザだって言うのか?」
い・・嫌だ。嫌だぞ俺は・・。
「見るでござる。ここに何か書いてござる。」
ジョニーはそう言って壁際にあった石版に向かった。それを奴は音読する・・・。
おめでとう。勇敢なる冒険者諸君。
私はここに君たちが求めて止まない「不老長寿の薬」を用意した。
効能は以下の通りである。
1.一番輝かしい歳にまで若返ることが出来る。
2.一生歳も取らず長寿になる。
ただしこの薬には副作用があり、飲んだものは肉体は瞬時に、精神は徐々に性転換してしまう。
しかしこの副作用には他の誰にも出来ない第2の人生を歩む事が出来るというすばらしい利点もあるのだ。
それでも旧性に未練があるものはもう一度飲むことによって更に性転換を進めることは出来る。
だがここにあるものを飲んでも既に体に免疫が出来ているはずなので無駄である。
私はここの他にも同じようにこの薬を用意した。
旧性に未練あるものはそれを探せばよいだろう。
大魔道士インフルエンザU世・・・・・
「いやだああああああ!」
俺は動けない姿勢のまま叫んだ。
「ぐわっ・・耳にキーンと来たあ!」
俺の甲高い悲鳴をまともに聞いて2人同時にそう言った。
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