プロローグ編
第二章
気になるもの


 俺は今、2人の男、マイクとジョニーに鎧を脱がされていた。

 第三者の目から見たら相当異様な光景に違いない。

 マイクは俺と同じようなフル・プレートメイルに身を固めた男で魔法にも精通する魔法剣士。

 たびたび国家の危機を救ってきたこの男は各国騎士団からのスカウトをことごとく断り続け、しがない冒険者を続けている。

 俺と同じく国家権力に縛られるのが嫌だからだろう。

 とてつもなく強い上金も持っててその上ハンサムで・・と女にもてるタイプ。

 本人も相当なプレーボーイで暇なときは必ず女を誘っては何かをしているらしい。

 ジョニーは黒装束に身を包んだ忍者、と言うことしかわかっていない。

 素顔も年齢も生まれも謎に包まれた男である。

 がたいも小さいし痩せて見えるのだが、奴の動きはこの俺でもなかなか見極めることが出来ない。

 おまけに忍術とか言う妙な術を使う。

 ようやくブレストの部分が外れるとそこからは厳重な三重織りのチェインメイルが顔を覗かした。

 俺の鎧の総重量は軽く100sを超える。

 これだけの重武装、並の男も立っていられんのに女の体で支えきれるわけがない。

 どおりで急に重く感じるわけだ・・。

 今度はジョニーがガントレットとヴァンブレイス部を外し、やっと手が動かせるようになった。

 ・・・情けねえ。こんな恥を覚えたのは生まれて初めてだ。やっとの思いで身を起こし、手を見てみた。

 か・・か細い。

 男の時の首ぐらいもないかもしれない。どおりでチェインメイルすら重く感じるわけだ…。

「さあいよいよ下半身だな。」

 正義感の強い第三者が聞くと斬りかかってきそうな台詞を吐きながらマイクの指がグリーブに伸びる。

「残念だが両手が動かせるから自分でするよ。」

 俺はそう言うとグリーブの留め具を外しにかかった。でも考えたらこれ外すと靴はないんだよな・・。

「ゴンザ殿。もしかして留め具を取らずとも脱げるのではないでござるか?」

 ジョニーにそう言われて気が付いたが確かに脱げそうだ。突然マイクがグリーブをひっつかんで引っ張ると簡単に取れてしまった。

「・・・これじゃ起きれねえのも無理ないな。」

「むむむ・・・。」

 おれはひたすら悲しかった。

 ・・・ようやく鎧が取れ、立ち上がろうとしたとき俺は嫌な感覚を覚えた。

 チェインの下に着ていた服がでかすぎてずり落ちる感覚だ。

 とりあえず座った姿勢のまま腰にロープを巻きつけ、ズボンがずり落ちないように固定した。

 まったく・・素っ裸って訳にもいかんしな。

 しかしでかかったんだな俺って。今の俺ならルパ○V世のようにシャツの首の穴からパンツ一丁で飛び出せるかもしれん・・・。

 そう思って何気なく襟口を引っ張っていたらちらりと胸が見えてしまった。反射的に襟を押さえる。俺の鼓動は激しくなっていた。

 見てしまった・・・。

 自分の体なのに何故か罪悪感を覚えてしまう。多分今の俺の顔は真っ赤になっていることだろう。

「ゴンザ殿。武具は拙者が預かるでござるよ。」

「あっ・・・ああ!すまねえ。」

 俺は襟口の余ったところを急いでくくりながら言った。ジョニーは俺の武具達をウルバックにつめていく。

 ウルバックとは魔法の背負い袋で無限大の容積を誇る、俺達のようなレベルの冒険者の必需品だ。

 ただし重さは変わらないので今奴の荷物は120sを超えるものになっているだろう。

 いい奴だったんだな・・お前って。

「とりあえず一瓶持っていくか・・・・。引き上げよう!」

「そうでござるな。保存方法は直射日光を避け冷暗所に保管して下さい・・と書いてござるぞ。」

 ジョニーは例の石版を見ながら言う。こいつは取扱説明書のたぐいを熟読する性格らしい。

 こいつにつけられた殺人マシーンの異名が俺の中から薄れていく。

 その後も丸腰の俺は2人に護って貰うかたちとなっていた。次々に襲いかかる化け物をマイクがフレアで焼き払い、ジョニーが鮮やかに分身殺法を見舞う。俺はジョニーから小刀を借りていたが俺に扱えるタイプのものではなかったのて後ろで見ているだけ。

 そして程なく出口が見えてきた。

 出口から見える海岸にでかい帆船が停泊している。

 マイクの船、「ムロト号」だ。

 船員約50名で繰船する豪華船を奴は個人で所有している。

 名前の由来はどこぞの大嵐から取ったらしい。まったく・・・船に付ける名じゃねーな。

「小舟を出せーっ!」

 マイクの指示で船員が小舟を降ろす。そう言えばあいつ、俺のことどうやって船員に説明する気だ?

 女になった。

 ・・なんて噂が流れればもう生きていけねえ!

「おっ・・おい、マイク、ジョニー・・。俺は魔界に落ちたんだ。いいな。」

 その時の俺の目は多分殺気すら放っていただろう。俺は必死だった。

「突然何でござるか?ゴンザ殿。」

「だからゴンザレス・ゴンゾーは魔界に落ちたんだ!」

「ははーん、要は女になったことを知られたくないって訳か・・。」

「お前が俺の立場だったらどう思う?やだろ?な?な?」

「なるほどそうでござるな。天に誓って他言はせぬでござるよ。魔界に落ちて行方不明って事でいいでござるな?」

「しゃーねーな。」

 ・・と言うわけで俺は近くの島から邪神に捧げられた生け贄という肩書きになってしまった。もっとましなのはねーのか!と抗議したが

「じゃあゴンザだな。」

 そう言われると我慢するしかなかった。畜生・・。

 船に乗り込んであてがわれた船室に入った。重いチェインメイルを脱ぎ捨て、ベッドに横たわる。

 出てくるのは深い溜息だけだ。

 ふと顔を上げると鏡が目に映った。

「お・・・・・」

 おれは写っている顔を見て止まってしまった。これが俺なのか・・・。

 写っていた顔は自分で言うのも何だがとても可愛い。皮肉にも俺の好みだ。

 禿かけたのをカモフラージュするために伸ばしていた髪が絶妙な長さだった。もちろん禿はもうない。ふさふさだ。

 肩幅も狭くて弱々しくて抱きしめたら折れそうで・・・・。

 ううむ・・・。プ・・・プロポーションはどうなんだろうか・・・。き・・・気になる!

 そう言えばマイクが使用人に着替えを持ってこさせるって言ってたな・・。まだなのか?

 さっきちらっと見た見立てではなかなかのボリュームだった。ううむ。・・・また覗いてみるか?

 そんなこと考えていたら部屋にドアのノック音が響いた。

「あっ・・開いてるぜ。」

 と相手に言うと使用人の女が入ってきた。

「失礼します。お着替えをお持ちしました・・。」

「あ・・ありがとう。」

 使用人が下がると俺は早速着替えを手に取った。しかしこれ・・・思いっきり女物じゃないか!こ・・これを着ろと言うのか・・。

 しかしこのままの格好でいられないと言うのも事実だ。くそう。帰るまでの辛抱だ。そう自分に言い聞かせて着替え始める。

おお!

おおお!!

おおおお!!!

おおおおお!!!!

 着替えが済んだ。

 気になっていたプロポーションの方だがなかなかセクシーダイナマイトって感じだった。

 今までの俺なら鼻血垂らして倒れていたかもしれん。

 そして着てみた女物の服。これが嫌になるほどにあっている。外見は完全に女になってしまった。

 しかもおれが男だったらほっとかないだろうと思うほど可愛い。・・・ブスで無いのが唯一の救いだな。

 俺は今まで着ていた服をウルバックに詰めはじめた。

 トランクスなんて船員に見つかった日にはヤバイしな。

 あらかた詰め終わるとベッドの上にはブラジャーが残った。さすがにこれだけは着ける気がしなかったのだ。

 こいつの処理法を色々考えてみたが結局バックに詰め込んだ。

 まぁ何かの役に立つかもしれんし・・・。

 これから航海はまる3日かかる。恥ずかしいからあまり外には出ないでおこう・・・。

 女体の神秘を一通り堪能した俺はベッドに転がると昼寝としゃれ込むことに決めたのだった。





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