プロローグ編
第五章
メンバー探し


 朝が来た。

 結局俺は冒険者の馬鹿騒ぎを見ているうちに徹夜してしまった。

 彼らのほとんどがそこら辺で居眠りしており、他の冒険者達がそんな奴らを部屋へ運び込む。

 ここにいるとよく目にする光景だ。

 チェインの寸法直しが終わるまで後3日かかるらしい。

 今の実力じゃ一人旅は無理そうだから今日は誰か適当な奴でも探すか。

 その前に少し寝よう。寝ぼけた顔で誘うわけには行かないし、誘うなら冒険者の多い夜のほういいだろうしな。

「マスター。部屋借してくれ。」

「へへへ。あんたも徹夜組か。会員価格で銀25だ。」

 俺は金を支払い、鍵を受け取った。

 でかいあくびを一つすると俺は部屋に向かって歩き出した。

 階段の上の窓からは淡い日の光が射し込み始め、小鳥達の鳴き声が聞こえる。今日もいい天気になりそうだな。

 そう考えつつ2階に上がり角を曲がったときだった。

「どわわっ」

 俺は突然現れた金髪の男とぶつかった。

 妙な悲鳴を上げたのは俺の方である。

 俺はそのままバランスを崩して尻餅を着く羽目になってしまった。

 見てみるとそこには痩身の美青年が立っていた。

 銀◯英雄伝説の帝国軍人を思わせる長髪の男は俺に手をさしのべる。

「大丈夫ですかレディ。少し考え事をしていたもので・・・。ご無礼をお許し下さい。」

 なんだこいつ。レ・・レディだと?

 俺は優雅に手を差しのべる青年を見つめたまま、ただ呆気にとられていた。(唖然)

「おけがはありませんか?レディ。」

「あ・・ああ。」

 俺は奴の手を借りて立ち上がった。

 目と目が合う。

 俺は奴から発せられる雰囲気に押され、目をそらすことが出来なかった。

 奴も俺から目を逸らさず、じっと俺の顔を見つめている。

「・・・・・なんだよ。人の顔じっと見やがって」

 俺はその雰囲気に耐えられずそう言った。

「これは失礼しました。貴女があまりに美しかったので。」

「はぁ?」

 なっ・・なんなんだこいつはーっ!

「申し遅れました。私マイケルともうします。貴女のお名前は?」

「ゴ・・じゃなくてテイファだ。」

「美しいレディはお名前も素敵だ・・。」

 ぞわわわ!

「わ・・わりぃ。俺徹夜しちまったからもう寝るわ。」

「そうでしたか。お休みなさい、レディ。」

 俺はそう言う奴を無視して、逃げるように奴の横を通り抜けて部屋に入った。

 な・・なんてキザなヤローだ。

 マイケルか。貴族の出だな。

 鎧の類はまだ身につけていなかったが腰に差していた剣が妙に印象に残った。

 柄は両手でも持てるように広くとられており、鞘は妙に細かった。

 たぶんエストックだろう。エストック使いとは珍しいな。

 とりあえずもうあいつとは話したくはないな・・。そう思いつつ俺はベッドに入った。

 おやすみ・・・・・。



 俺は誰かに見られているような気がして目を覚ました。

 窓の外から誰かがこっちを見ている?俺は窓を開けて外を見てみるがそれらしき人物も気配すらもなかった。

 視線ももう感じない。

 この俺に気配を感じさせない奴となると相当技量に長けた奴か俺の勘が鈍ったか。

 只のストーカーだったりしてな。それはそれで嫌だが…。

 時間は昼頃だった。

 目が覚めた俺は酒場に行って軽く食事をとる。さて、これから相棒探しだな。

 マイクやジョニーみたいな奴もいいんだがここは新米気分をじっくり味わうために似たレベルの奴らに声をかけるか。

 俺は早速声をかけることにした。しかし・・・・・

「あんたが俺と?冗談じゃねぇ。」

「女とガキのおもりは御免だね。」

「悪いことは言わん。くにへ帰れ。」

「女につとまる仕事じゃないぜ。あんたが魔法でも使えれば話はべつだがな。」

「悪いな。もう組んでいるんだ。」

 こ・・こいつらぁ〜。(−_−#)

 そんな感じで俺は断られ続けた。曰く冒険者って仕事を舐めるな。と言うことらしい。

 んなことはお前らよりもよくわかっているわい!!

 そう言ってやりたかったが言うこともできない・・。女になった男は辛いぜ。

 結局そのまま夜になった。

 俺は疲れてテーブルに腰掛けていたがその時一人の少女が目に付いた。

 おどおど誰かに話しかけてはガックリ肩を落とす。時には威嚇されて逃げ出す場面も見られた。

 そのままガックリとして俺と同じように席に着く。こいつも俺と同じらしい。

 俺はそいつに話しかけることにした。

「よう彼女!どうしたんだ?」

「えっ」

 彼女は驚いて俺の方に振り返った。

 ふむ。なかなか可愛い顔してるじゃないか。あと3年ぐらいでストライクゾーンだな。

 ショートカットのよく似合う16〜7ぐらいの少女だ。

 彼女は俺の腰に差した剣を見ると顔をほころばせた。

「まぁ冒険者の方なんですね。私の他に女性の方がおられるなんて・・。」

「おう。まだ冒険に出たことはないがね。」

 ・・・女になってからはな。と心で付け加えることを忘れない。

 それを聞いて彼女の顔が更に明るくなる。

「じゃあ私と一緒ですね!あ・・申し遅れました。私、マリアと申します。」

「俺はゴンザ・・じゃねえ、テイファだ。あ・・あんた魔術学校出たばかりなのか?」

 俺は彼女の胸に誇らしげに付けられたまだ真新しい魔術学園の紋章を見ながら言う。

「そうなんです。お師匠様に世界を回って広く知識を求めてこいと言われまして・・。」

「なるほどな。で、あんたも相棒が見つからない口か。」

 俺がそう言った途端マリアの表情が暗くなった。

「そうなんです。私みたいな役立たずはいらないって・・。」

「ははは・・。俺も似たようなモンだ。似たモン同志で組むかい?」

「え・・・。わたしとですか?」

「今この場にいるのは俺とあんただけだぜ。」

「ありがとうございますっ。よろしくお願いしますっ。」

 マリアは喜んでOKしてくれた。少し頼りない気がするが魔術学園を卒業しているし腕はそこそこあるだろう。

 互いに一人よりまだ安全ってモンだ。

「男手も欲しいところだな。2人くらい。」

「そうですね。女性2人旅は危険でしょうからね・・。」

「まあな。だがそれだけじゃないぜ。何かと男の力が必要なことも多いからな。」

「え?」

「まず女だけだと誰からも舐められるのは確実だ。仕事にもありつけないかもしれん。」

「はぁ。そうですね。」

「それに純粋な力だけなら男には恐らく勝てねえからな。何かと必要なときもあるだろう。」

「でも・・みつかるでしょうか・・。」

 自信なげに言うマリア。

「ま、なんとかなるさ。2手に別れようか。バラバラに探したほうが効率もいい。」

 俺は努めて明るくそう言った。マリアは笑顔で答えてくれる。

 う・・・その笑顔、かわいいじゃねえか。

 しかしこの作戦があんな事態を引き起こすとはその時には知るよしもなかった。

 1日が過ぎた。

 結局俺の方は1人も探し当てることが出来なかった。

 まあまだ鎧が仕上がるまで時間があるからいいか。

 俺は下に降りてマリアの姿を探した。程なくマリアは見つかったのだが・・・・。

「これはこれは・・。何かの依頼かと思っていましたが貴女も冒険者でしたか・・。

なるほど女性一人では定めし不安なことでしょう。わかりました。わたくしでよければお供いたしますよ。レディ。」

「よかったぁ。あ・・それと私一人じゃないんです。もう一人テイファさんって言う素敵な女性がおられるんですよ。」

「ほう。これはこれは・・。」

 俺はその光景を見て絶句した。

 マリアがよりによって昨日のキザ美青年、マイケルを誘っている。しかもOKと来た。

 あ・・・悪夢だ。もう会いたくなかったのに・・。

「あ・・・テイファさん。おはようございます!」

 俺の姿を見つけたマリアがとても満面の笑みを浮かべて声をかけてきた。

「だれだ?このキザな兄ちゃんは。」

 おれは不機嫌そうにいった。

「これはこれはテイファさん。貴女とこのような形で再会出来て光栄です。」

 俺はこんな形で再会したくなかったよ。

「マリアさんはどうやら新米冒険者のようですがテイファさんはどうなのです?」

「そうだな。もうかれこれ20年・・・」

「はあ?」

「ぶるるるるる!お・・俺も新米だよ!ははは・・は・・。で、あんたは?」

「私は2年くらいでしょうか。まだまだ未熟者ですよ。」

 ほほう。こんな奴でも一応それなりの経験は積んでいるんだな。

「そう言えばテイファさんはどなたかみつけられましたか?」

 マリアは期待に満ちた目で俺に聞いてきた。

「ダメだ。話になんねえ。」

「そうですか・・・。」

 肩をガックリ落とすマリア。こいつって喜怒哀楽の感情表現が豊かだよな。

「もう一人男手を探しておられるのですね?ならば私の知りあいに心当たりがあります。

何度も供に冒険に出ましてね。彼は私にとって親友(とも)と呼べる人物でしょうね。」

「えっ!ホントですか!?マイケルさん。」

「ええ。キッドと言ってなかなか頼りになる男です。私がここに来たとき彼から色々教わりました。」

 マイケルとキッド・・・。ナイト○イダーコンビか?

 俺はそいつの名前を聞いて思わず下らないことを考えてしまった。

「あそこで寝ている男がそうです。」

 マイケルがそう言って指した方には男がテーブルによだれを流しながら寝ていた。鼾もかいている。

 俺は奴を見たことがある。決まってあそこでああやって寝ていた男だ。

 3年前くらいから見かけていたから今じゃ結構まともな冒険者に育ったことだろう。

 俺達はそいつの元へと行った。

「キッド。起きて下さい。話があります。」

「ZZZZZZ―(ずずずずずずー)」

「何だか起こすのが可哀想ですね。」

 マリアがキッドの寝顔を見て笑みを浮かべる。マイケルは苦笑する。

 マイケルが必死に起こし続けるが後5分だのもうお腹いっぱいだのと言って起きる様子はない。

 仕方ない。あの手を使うか。

 俺はキッドの前に置かれた水入りのコップを手に取ると丁度上を向いている奴の左耳に一滴水を落とした。

 キッドはビクッと反応する。手応えありだ。

 俺は奴が顔を上げる前にコップを元の位置に戻した。

 マイケルとマリアは俺の手練の早業を、只呆然と見ているだけだった。

「ななな・・何事だ!!」

 起き上がったキッドは慌てて耳に小指を突っ込んでいる。

 やがて俺達に気付くと、キッドはマイケルの両側にいる俺とマリアをキョロキョロ見わたし、

「おいっ!マイケル!誰なんだこのカワイ娘ちゃん達は!?」と言った。

「キッド。彼女たちが私達と一緒に冒険しないかと誘ってくれたのですよ。女性だけの旅は何かと危険ですからね。」

「なにい。そりゃほんとか!?かあーっ、カワイ娘ちゃん達が2人して俺を頼る。もてる男は辛いねぇ〜。」

 キッドはうれしそうに返事をした。

「それであのー、どうでしょうか・・・。」

 マリアが自信なげに問う。

「OKOK。カワイ娘ちゃんには弱いのよ。」

「怪◯君か。貴様は。」

 即座にそう突っ込んでやった。

「はははは。悪魔、怪獣何でも来〜い・・・ってか?」

 ノリのいい奴だな。こいつは。

「で、真面目な話おねーさん方は新米か?」

 突然真面目な口調でキッドが問う。

「そうだ。だから経験豊かな冒険者を捜してたんだけどことごとく断られ続けてな。」

 俺はそう答えた。

「彼らにはあなた方を守る自信がないのですよ。」

「でもマイケルさん、皆さん強そうな人たちばかりでしたよ。」

 マリアが難しい顔をして言った。

「マリアさん。敵は何もモンスターや悪人だけではありません。

いかに個人の武力が強くても罠や油断によってあっさり死んでしまうことがあるのです。」

「はあ…。」

「…やはり一番恐いのは己の無知ですから。私の知りあいにもそうして亡くなった方が幾人かおられます。」

「えええっ!?」

「だからお二方。あんた達がこの仕事に向いてないと判断した時点で辞めて貰うぜ。

まあその時に命があればだが。そして慣れるまでは勝手な行動をとらないこと。

一人のミスが全員を殺すこともあるからな。いいな?」

「はいっ!わかりましたっ!」

 マイケルの知りあいが死んだって言う話が効いたのだろう。マリアの顔は既に緊張感でいっぱいだ。

「まあ堅苦しい話はここまでにして今晩は4人で飲み明かすか。それまでの間に仕事を探してくるわ。

日が暮れてきたらこのテーブルで会おうぜ。」

「ああ。判ったよ。それから鎧を寸法直しに出しているんだが出来るまであと2日かかるんだ。」

「OKねえさん。それを踏まえて探してくらぁ。マイケル。おめーも手伝え。」

「はいはい。では後ほど会いましょう。」

 マイケルは俺達にウインクすると、キッドと供に去っていった。

「良かったですね。テイファさん。いい人達が見つかって。」

「まあ・・な。」

 確かにいい奴らだがあのマイケルだけは苦手だぜ。慣れるしかねえな。

 俺は人知れず小さなため息を吐いた。




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