プロローグ編
第六章
グッドイヤー商店


 めでたく仲間が見つかった俺達。マイケルとキッドは仕事を探しに出かけ、また俺とマリアは2人っきりになった。

 とりあえずこれから何をしようか。

 よし。今からマリアも誘って足りないものでも買いに行くか。

 そう言えばマリアの奴、基本的な装備は整えてあるのだろうか・・?とりあえず訊いてみるか。

「マリア。お前冒険者するにあたって必要な物は揃えてあるか?」

「必要な物・・ですか?」

 俺はこの時点で揃えてないと判断した。

「ああ。そいつを買いに行こうと思うんだがお前も来いよ。」

「はい。行きます(^0^)」

 マリアはうれしそうに答えた。

「よし。決まりだな。」

 こうして俺達はギルド経営の店、グッドイヤー商店へと足を運んだ。

 商店内は雑然と棚が並んでいてその中に所狭しと商品が並べてある。

 この店は武器、鎧から食器などの日用品まで扱っている。

 中には冒険者達が売っていったマジックアイテムも数多く置いてある。

 マリアは物珍しそうにキョロキョロしている。まずはこいつの装備から整えるか。

「マリア。とりあえずお前に必要な物を揃えるぞ。」

「はい。」

 俺は一般品のエリアに行き、手際よく品物を集め出す。

 松明、ロープにコンパス、ほくち箱。こいつらを入れるための袋もいるな。

 値は張るがウルバックの1つでも買っておくか。

 水袋に携帯用の食器一式、野営用に毛布、防寒用のマントや防寒着。携帯食料なんかもいるな。

 俺がせっせとアイテムを集める様をマリアは呆然と見ていた。

 その様子に気付いたのはマントをマリアに試着させようとしたときだ。

「テイファさんって新米さんなのにこういう買い物慣れてるんですね。」

 マリアが感心したように言う。しまった。ついいつもの癖で早く集めすぎたか・・。

「ははは…。だいたい前もって考えてあるからな。必要な物は。おおい。勘定頼むわ。」

 俺は適当にごまかしながら店員を呼びつけ値段を聞いた。

 すぐさま店員が駆けつけ、算盤片手に値段を計算する。そして

「総額で銀貨187枚になります。」

 と言った。

 マリアの顔がみるみる青くなる。

「テイファさん・・。お金足りないんですけど。」

 消え入りそうな声でマリアがぼそっと俺にそう言った。

「心配するな。奢ってやるよ。」

 俺は財布から金貨を19枚取り出すと店員に払った。

「ほほう金貨ですか。お客さん、お金持ちなんですねえ。」

 店員は感心した声でそう言った。

「ててて・・テイファさん!そんなの悪いです!そんなに高価な物・・私要りません!」

 マリアが必死に俺を止めようとした。

「いや、お前が持ってないと他の仲間が困るときがあるかもしれないんだよ。

それが命に関わることだってあるんだ。だから持っていてくれ。」

「そ・・そうなんですか?」

「当然だ。道具一つないために死んだって話はよくあることなんだぜ。お前が他人に借りを作りたくないのならいつか返してくれればいいし、そのまま貰ってくれてもかまわねえ。とりあえず今必要なんだから持っとけ。」

「わかりました。ありがとうございます。いつお返ししますね。」

 マリアはぺこりとお辞儀をしながら礼を言った。

 さて、次は俺の買い物だ。俺が欲しいのはマントとブーツ。

 携帯食料もいるな。

 マントと携帯食料を買い、マジックアイテムのエリアに向かう。

 ブーツのところまで来て目当てのやつを探し始めた。

 ブーツ・オブ・スピード

 たぶんここに売ったんだと思うのだが…。

 敏捷性を高めてくれるこのブーツは今の俺には必要不可欠だ。

 男の頃、女物で大した奴じゃなかったから売ってしまったんだな。

 おっ・・あったあった。

「テイファさん。」

 不意にマリアが話しかけてきた。

「なんだ?」

「マジックアイテム・・買われるんですか?」

「ああ。」

 マリアは周りの値札なんかを見ながら言う。

 値札には金貨の単位で値段が記されてあった。中には1000を越えるのもある。

 金貨一枚約1万円と考えてくれればいかにここの商品が高いかがわかるだろう。

 まぁ俺にとっては大したものでもないのだが。

 俺は目当てのブーツの値段を見た。金貨65枚。まぁ妥当な値段だな。

 俺はそれを手にとって試着してみた。ふむ。サイズもだいたい問題ないな。

「おいおい。勝手に試着されては困るな。」

 先程から俺達の様子をじいーっと見ていた体だけはでかい店員が、ズカズカ近付きながら言った。

 おおかた冷やかしとでも思ったんだろう。堪りかねた、と言う表情だ。

 珍しいお宝が多いので、博物館見学の気分で訪れる客も多い。

 中には持ち逃げしようとする者もいたりするのでここの警戒態勢は厳重だ。

 どんな客でも必ずこうして見張られているのだ。

 店員は俺達の前まで来ると不機嫌そうな顔で俺達を見下ろすと、マリアはビックリして俺の後ろに後ずさる。ビビリやがったな。

「姉ちゃん。まさかそのまま持っていくつもりじゃなかったんだろうなぁ?」

 凄く乱暴に聞こえるが実はこの対応、マニュアル通りなのである。

 一般庶民の冷やかしや、貧乏冒険者などを二度と近づけさせないようにしばしば脅しまくって追い出すことがある。

 恐い思いをした連中は二度とここに来ようとは思わない。そうすることで客があふれるのを防いでいるのだ。

 客が多いとどうしても警戒が行き届かなくなるし、ここで買い物できる客は、大抵一目見てわかるのだ。

 どうやらこの馬鹿は俺達のことを冷やかし客だと思ったらしい。

「あんたみたいなのにずっと見張られているのに盗んで行くと思うか?このブーツを買いに来たんだよ。」

「ほほう。お前、ここのエリアのブツは向こうの奴とは一桁値段が違うんだぜ?

お前のようなションベン臭いガキに金貨65枚払えるのか?

言っておくが一括払いだぜ。」

 ショ・・ションベン臭いガキだとぉ?

「無理だろう。なら帰れ。ここはお前らのような田舎娘が来るところじゃないんだよ!

 店員の声は遂に怒鳴り声になっていた。俺の後ろでマリアが縮み上がる。

 俺はにやりと笑みを浮かべ、黙って金貨袋を取り出した。パンパンに膨れ上がった重い奴だ。

 そして俺は無造作に中身を取り出した。大量の金貨が棚の上に転がり出る。

「なっ・・。」

 それを見た店員は驚きの表情を浮かべた。

 無理もない。見た目17、8の娘がいきなり金貨を大量に取り出したのだ。

 お前らの世界で言うのなら女子高生がぽんと札束を出すのと等しい。

「とっとと数えろよ。俺は買うと言ったら買うんだ。それとも金払っても売れないって言うのか?」

「う・う・うるさいっ。偽物じゃねえだろうな・・。」

 奴はよほどショックだったらしい。いちいちじっくり金貨を調べる。

 しかし当然本物だ。奴は遂に観念して数え始めた。

「・・63、64、65。よ・・よし。OKだ。

しかしお前みたいなションベン臭いガキがよくこんだけの金をぽんとだせるな。」

「あんたじゃどう頑張っても出来ねえだろうな。こんな買い物。」

 お返しにそう言ってやった。奴は怒りと悔しさのあまりに顔を引きつらせる。

「どうした?俺達はお客様だぜ?」

「あ・・ありがとうございましたー!」

「よしよし。ご苦労。」

 奴は引きつった顔のまま頭を下げた。

「ほれ、チップだ。」

 そう言って俺は奴の頭に向かって金貨を1枚投げてやった。

 奴は悲鳴を上げながらも文句を言えずにそのままの姿勢で俺達を見送った。

 ザマーみろ。この俺様に楯突くなんざ100万年はええ。

 マニュアル講座その二。

 ここで物を買う客は相当儲けている実力者か、貴族の好事家だけに限られてくる。

 そう言う客には失礼ないように接しなければならない。

 そうしないとたまに彼らの怒りを買い、冒険者の場合は半殺しにされ、

貴族の場合は根も葉もない罪状を突き立てられ、牢にぶちこまれることも少なくないのだ。

 もちろん上客に今後も頻繁に利用して貰う様、好印象を与えるという真っ当な理由もあるのだが、そんなものは二の次である。

 ちなみに俺やマイクもここで暴れた経験がある冒険者のウチの一人であることは言うまでもない。


 買い物を終えた俺はマリアを連れて自室に戻った。

 マリアはうれしそうに先程買った荷物を取り出してしげしげ眺めている。

 特にマントが気に入ったらしく、着けてみては鏡の前に立って色々ポーズを取っている。

 しかしこういうと悪いがまだ幼い顔立ちのマリアにはあまり似合っていない

 しかしこの世界、似合う似合わないなどは2の次だ。

「テイファさん。このかばん変ですよ。物を入れても全然膨らまない・・。」

 マリアは他の荷物を詰め込みながらそう言った。ウルバックを知らないのか。

「そいつはウルバックと言ってだな。無限の容積を持つマジックアイテムだ。その気になればロック鳥なんかも入るぜ。

重さはかわらんけどな。」

「す・・すごい!何気なく持っていたかばんがマジックアイテムだったなんて!どうりで高いわけですね。」

 マリアは驚きを隠せない顔でそう言った。

 その後俺は、マリアに買い揃えた道具の使い方を教えてやった。

 特に時間がかかると思われたロープ結びは以外にもあっさりおぼえてくれた。

 こいつは手先が結構器用で物覚えも早いらしい。

 なのに何でこんなに無知なんだ?俺はこいつの師匠とか言う奴がよほど無能な教師だったのだろうと判断した。

 まったく・・馬鹿な師匠についた弟子は苦労するよな。

 そうしている内に日が暮れてきた。

 そろそろ晩飯でも食いに行こうかと思っていると誰かが俺の部屋の扉をノックした。

そして俺達が返事をする前に奴は扉を開る。

 そこにはキッドが立っていた。

「ようカワイ娘ちゃん達!そろそろメシに行こうぜ。」

 奴はさわやかな笑顔を浮かべてそう言った。

「キ・・キッド!レディの部屋をいきなり開けるものではありませんよ!なんて無礼な・・。」

 後ろから明らかに狼狽えているマイケルの声がする。

「おまえ・・俺達が着替えていたりするのを期待していただろう?」

 俺はキッドが小さく舌打ちするのを聞き逃さなかった。それで聞いてみたのだが、

「おうよ!」

 キッドは自分の胸を叩きながらむしろ誇らしげにそう返事した。

「何を言っているのですか、キッド!まずはレディ達に非礼をお詫びなさい。ボケる場面ではないですよ。」

 その様子を見かねたのか後ろからマイケルが現れてそう叫ぶ。

「ははは・・。しかしちゃんとノックしたぜ?」

 キッドは首を傾げながら訊く。

「キッド。女性の部屋以前に男性の部屋であってもノックした直後にいきなり扉を開ける物ではないですよ。」

 マイケルがそう言う。そりゃそうだな。

「まったく。・・キッドの非礼、わたしからもお詫びします、レディ。」

「あ・・ああ。」

「では食事にでも行きましょう。色々話しもありますし。」

「はい。行きましょう。(^0^)」

 マリアはうれしそうにそう答える。お前、酒呑めるのか?

「じゃ、行こうか。」

 キッドがそう言って歩き出し、俺達は1階の酒場に向かうのだった。



 次章 前章 戻る