ウェンレーティンの
野望編

第二十四章
襲撃!黒の団!!


 薪拾い中に忍者に襲われた俺は仲間の元へ走っていた。

 1人は倒したものの、まだ何者かが潜んでいるらしい。

 俺が細心の注意を払っているにもかかわらず、掴めない敵。

 ウェンレーティンの追っ手か!?

 まさか奴らが忍者を雇っているとは・・。

 恐らくさっきの奴は斥候。後ろにまとまった仲間が潜んでいる可能性が高い。

 となると俺達は窮地に立たされていることを意味していた。

 奴らは暗殺技術を磨き上げた集団だ。

 そいつらを相手に隠れ場所が多い森の中は明らかにこちらに不利だ。

 これからは道中、奴らの気配はもちろんのこと罠に対する警戒も強めなくてはならないのだ。

「くっそ・・。こいつは不味い。」

 俺はそう独りごちた。

 しかしこんな状況に関わらず、顔には自然に笑みが浮かぶ。

 今の仲間達ではこの状況を無事に抜け出すのはかなり難しくなるだろう。

 死人が出ても不思議ではない。下手すれば全滅だ。

 このスリルと緊張感が俺をたぎらせていた。

 俺はキャンプへ一直線に走り続けた。やがて人影が見えてくる。

 間違いなくキッド達だ。ここはまだ無事だったらしい。

 俺はそのままの勢いを保って駆け込んだ。皆が一斉に振り返る。

「お帰りテイファ。どうしたんだ血相変えて・・。」

 キッドが怪訝な顔つきで俺を見る。

「すぐに発つ用意をしろ。ウェンレーティンの追っ手だ。奴ら忍者を送り込んできやがった!」

 キッドとマイケルの表情が一気に凍り付いた。

「忍者って・・まさか襲われたのか!?」

「テイファ!怪我はありませんか!?」

 2人は俺に駆け寄りすぐに怪我をしていないか確認をする。

「ああ。先程襲われた。向こうに死体が1つ転がっているはずだ。怪我はしてないから心配はないよ。」

 俺は2人を割るように進み出てマリアとクリスの様子をうかがった。

 2人共やはり今一元気がない。

「すぐに荷物をまとめろ!メシを食っている暇もないぞ。さぁ早く!」

 俺は指示を出してすぐにキャンプの焚き火を踏み消した。

 皆慌ただしく荷物をまとめ始める。

「テイファ・・。確かに敵は忍者だったのですか・・?」

 その中、マイケルが神妙な顔で俺に尋ねてきた。

「ああ。一瞬気付くのが遅かったら殺られていた。あれは間違いなく忍者だ。

 1人は殺ったがまだ近くに仲間が潜んでいる気配があった。」

「く・・なんて事だ・・。まさか実在していたなんて・・。」

 マイケルは俺の答えを聞くと額に手を当てて俯いた。

「実在?なんの話だ?」

 キッドが問うとマイケルはキッドに顔を向け

「ウェンレーティン侯爵家の秘密諜報部隊、『黒の団』です。」

 なに?

 そんな部隊、聞いたことなんか無い。

「極めて優秀な忍者達で構成された裏部隊で様々な諜報活動を行っていたと言われていた部隊です。

 先代当主の頃から噂はあったのですが・・。まさか実在しているとは・・。」

 黒の団。

 ウェンレーティンにそんなお抱え忍者部隊が居たなんて初耳である。

 俺の情報網にも引っかからなかったことをマイケルは知っていた。

 奴は何処でその話を聞いたのだろう。

「荷物、まとまりましたぁ。」

「よし、出発しよう。忍者相手にするなら細心の注意はらわねぇとダメだ。

 マイケルが先頭を俺が一番後ろに付くよ。」

「わかりましたキッド。」

 マイケルはさっと前に立ち、俺はその後ろに付いた。

「奴らこの先どんな罠仕掛けてくるかわからねぇ。慎重に行こう。」

「わかっています。」

 そう返すマイケルの顔には緊張の色が濃く浮き出ていた。

 ん・・?これは殺気!?

「・・マリアさん伏せて下さいですぅ!!」

「え?」

 俺が殺気をとらえた瞬間、いきなりクリスが声を上げた。俺はマリアの腕を掴み無理矢理引き寄せる。

「わ・・きゃっ」

 いきなり引っ張られてマリアはバランスを崩しよろける。

 ドカカッ!

 そのマリアの背後でそんな音がした。見てみるとすぐ背後の木に三本の小さなスローイングダガーが刺さっている。

「マリア!!」

 キッドが思わず叫ぶ。

「馬鹿野郎!!止まるな走れ!!」

 俺がそう叫び、キッドが慌てて飛び退く。するとさっきまでキッドが居た位置にまたスローイングダガーが刺さった。

「うおぉおぉぉぉぉおおぉぉ!!」

「はわわわわわぁあぁぁぁ」

 まるで俺達を追い立てるように次々にダガーが飛んでくる。しかもこれだけ投げている癖に何処にいるかがはっきり掴めない。

 俺達は闇雲に逃げるしかなかった。はぐれないよう、それだけを注意しながら次々襲いかかるダガーから逃げる。

 木を盾に出来るように木の陰に入るのだが、敵は素早く回り込んでくる!!

 敵の人数は2〜3人くらい居るだろうか。素早く木の上を移動し、俺達に位置を掴ませない。

 背後からは木から木へ飛び移る音とダガーが木や地面に刺さる音が俺達を追ってくる。

 俺は吹き矢を取りだし、応戦準備に入る。

 俺が構えた途端、追跡者の猛攻はなんの前触れもなく突然止まった。

「あ・・終わったみたいですぅ。」

「構うな!!このまま直進しろ!!」

 思わず足を止めて振り返ろうとするクリスの背を走る勢いのままキッドが押す。

「キッド。森を抜けます!」

 先頭のマイケルが先を指してそう言った。

 見ると少し開けた場所が見えてきた。見れば少し先に小高い丘がある。

「マイケル!あの丘の上へ!」

「わかりました。」

 そのまま俺達は丘の上まで走った。

 そしてようやく俺達は足を止め、呼吸を整えた。

「はぁ・・はぁ・・しかし、化け物か奴らは。」

 キッドが後方を睨みつける。

「しかし幸運でした。こんな場所を見つけられるなんて。」

 マイケルが言うとおり、ここの地形は今の俺達にとって大変都合が良かった。

 草原に覆われた丘は身を隠せる場所が少ない上、森よりも高い位置にあるために下からはこちらを視認しにくい。

 しかし何か引っかかる。さっきの猛攻のわりにはあっさりここまで来れてしまった。

 何かあるのか・・?

 急に猛攻が止まった理由を推察し始めた。

 罠か?

 さっきの襲撃は一見俺達を闇雲に狙って追ってきたように見えるがそうでなかったら。

 俺達が何処へどう避けるかを読み、こちらへ逃げてくるように追い立てていたとするならば。

 一見有利そうな地形に誘い油断させて罠を仕掛けるという手も考えられないことはない。

 しかし俺は改めてあの時の状況を思い起こし、考えを改めた。

 あれだけ動きの激しかったあの襲撃で俺達の動きの先を読み、この俺にそれと悟らせないでここまで上手く追い込む。

 そんな芸当はハイマスタークラスの忍者でない限り無理な話だ。

 仮にハイマスタークラスの者が居たとしてら、こんな回りくどい真似などせずあの場で何人か殺っていたはずだ。

 しかも見渡した限りではこの周囲に罠らしき物は全く見あたらなかった。

 もう一つの可能性。俺達が意外にすばしっこく、森を抜けるまでの間に仕留めるのが無理だと悟って仲間を呼びに言った。

 一番順当な可能性だ。

 完全な不意打ちを受けた上にあれだけの攻撃を受けつつも俺達は怪我人1人も出していなかった。

 その上俺は既に奴らの仲間を1人始末している。奴らもそれなりの警戒は抱いているはずだ。

「くそ・・。ここで迎え撃つか、このまま撒くべきか。

 にしてもまさかここまで追いついてくるなんてな・・。」

 そう言ってキッドは溜め息を吐いた。

「相手が何人居るか分からない以上、迎え撃つのは危険すぎますね。

 森に逃げることで追っ手を分散させ、出来うる限り少数と当たるのがいいかと思います。」

「同感だ。奴らが離れている隙にここを離れよう。

 1人2人相手ならば、まだ勝機は十分にある。」

「わかった。すぐに出よう。」

 皆頷いてすぐに荷物を担ぎ始めた。

 

 

「ふむ。思ったほどの連中ではないな。」

 地面に刺さったスローイングダガーを抜きながら忍者は呟いた。

「確かにな。あのトビーを討った奴らだと言うから慎重に当たってみたが・・。

 あれならば我々2人ででも討てたやもしれんな。」

 傍らに立つもう1人の忍者はテイファ達が逃げ去っていった丘の方を見ている。

 先程の怒濤の襲撃はこの2人によるものだった。

「うむ。だが殺気を感知する能力に長けた者が居るようだ。

 特に赤毛の女・・。トビーを討ったも恐らくあの女だろう。」

「うむ。あの攻撃のさなか我々の姿を探っていたのはあの女だけだった。そしてあの吹き矢。

 間違いあるまい。」

 二人はまた丘の上に視線を戻した。

「奴らもう動き出すな。とにかくお前は頭領に報告を。俺はこのまま奴らを尾ける。」

「承知した。では後ほどな。」

 そう言って片方の忍者は森の中へと消えていった。



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