ウェンレーティンの
野望編

第二十六章
キャンプ作戦



テイファ:
なぁ……。
マリア:
なんですか?テイファさん。
テイファ:
予告の時のタイトルってさあ。確か……。
マリア:
えぇと…、『ハイニンジャの実力』ですね。
テイファ:
で、今回のタイトルは一体どう言うわけだコラ。
マリア:
はぅ〜。私に聞かれてもわからないですよ〜(T-T)
クリス:
えっとなんでも2話分の原稿、一気に書き直したんだそうですよ。
テイファ:
2話分…。即ちストックしてある原稿も書き直したって事か?
クリス:
当たりですぅっ☆
マイケル:
まったく…。随分と更新されないと思っていたら…。
キッド:
だけど予告の内容を見ていると……。変わって良かったような気も。
テイファ:
しかし何で急に書き直しになんかなったんだよ?
クリス:
 
なんでも先の展開忘れて勢いで書き続けていたら、
にっちもさっちも行かなくなっちゃったんだそうですぅ☆
マリア:
ひどいなぁ。
キッド:
しかもその説明を俺らにやらそうって言うんだからなぁ……。
マイケル:
まったく。始末に負えませんね。
クリス:
なんでも予告だけ書き直して更新する案もあったそうなんですが…
一同:
ですが?
クリス:
それもコロッと忘れちゃってたんだそうですぅ☆
*一同、ずっこける。*
マリア:
あははは〜☆
キッド:
いや、笑えないって。(汗)
マイケル:
作者のトリ頭は有名ですからね……。
クリス:
そんな訳でタイトル変わっちゃいましたですぅ☆
テイファ:
まぁいいさ。俺の出番が減ることはないしな。
マリア:
出番が消滅してしまった人がかわいそぅ。(T-T)
マイケル:
やはりいるんですね……。
キラール:
おぉおぉぉ!!私の出番を返せ!!
クリス:
あのぉ、そろそろ本編に移らないと……。
謎の影:
女々しいでござるぞ、キラール殿。(おとこ)たる者、この程度で動じてはならぬでござる。
マリア:
ですね〜。みんな待ちくたびれちゃう(あせあせっ)
キラール:
貴様!ただでさえフォント小さくて読めねぇのにルビなんて振るんじゃないっ!!
キッド:
なんだ?さっきからなんか後ろでコソコソと…。
謎の影:
新技術ルビ振り!!拙者がこの作品で一番に使った(おとこ)!なんかいい感じでござる〜。(小躍り)
マイケル:
もう本編に移らないとならないというのに……。
キラール:
貴様っ!!どさくさに紛れてこんな所で自己アピールだと!?
テイファ:
おいそこ!さっきからうるせぇよ!
クリス:
それでは本編スタートですぅっ☆






「追っ手の気配は?」

「……。今はそれらしいものは感じられませんね……。」

「ふう…やっと撒いたか……。」

 既に日は落ちかけている時間帯となっていた。

 あれから俺達は忍者達を撒く余裕もなく、ただひたすら歩を進めるしかできなかった。

 連中は襲いかかる真似はせず、ただ俺達の後にピタリと張り付くだけ。

 どうも交替で俺達を張り、疲れさせる策に出たらしい。

「一時はどうなるかと思いましたが…。何とか休めそうですね。」

 皆の顔には既に疲労が色濃く浮き出ている。

 特にマリアの疲労はひどく、先程から言葉を発する余裕もないほどだった。

「ち……。テイファがこんな森に逃げ込もうなんて言わなければもっとましにやり合えたのにな。」

 キッドがボソリと呟くのを俺は聞き逃さなかった。

「なんだと!?キッド、お前今なんて言った!!」

 俺は声を荒げてキッドに詰め寄る。

「おまえのせいでこんな森で忍者相手やり合う羽目になったんだ!!ここまで来るまでにいつ殺られていてもおかしくはなかったぞ!!」

「森で忍者にあったのは俺のせいだってのか?はん、ならば森に入る前に忠告の一言でも言って欲しかったがね!」

「テイファ!キッド!やめなさい!!今言い争っても仕方ないでしょう!」

「うるせぇ!!元はと言えばクリスを拾ったお前達が迂闊だったんじゃないか。

 女の色香に惑わされやがって。アレさえなけりゃ普通に街道から帰られたんだ。」

「なっ…!?」

 俺達は今まで溜めてきた不満を一気に吐き出した。

 互いに相手の怒りを増幅させるように(なじ)り合い、場は一気に険悪となる。

「や…やめて下さいよぅ……。」

 そんな中マリアが消え入りそうな声で俺達を止めに入った。

 俺達3人は、はっと我に返ってマリアを見た。

「皆さん仲間同士で言い争うなんてどうかしていますよ…。」

 マリアが泣きそうな顔で俺達にそう言う。

 取りあえずこのマリアの仲裁で双方引き下がる。

 だがこれで気が収まるはずはない。

 キッドと俺は互いに一瞬睨み合うと、すぐ視線を逸らして小さく溜め息を吐いた。

「そうだな…。元はと言えばこんなトラブルを持ち込んだクリスが悪い。」

 俺はボソリと呟いた。

 その一言にビクッとクリスが動きを止める。

「そうだな…。ヴァーン・ハールだかなんだか知らないが、そいつのせいで俺達は国を追われる犯罪者だ!」

「トリスタン国内でもう我々が暮らせる場所はありませんね。相手はあのウェンレーティンですから…。」

 キッドに続き、マイケルまでもが不満のはけ口をクリスに向けた。敵意を宿らせた視線をクリスに向ける。

 クリスはただ黙って俯き、俺達の罵声(ばせい)に耐えている。

 言葉は発さないがマリアまでもが口を尖らせてクリスを見ていた。

「あんな槍、くれてやればいいんだよ。」

「いっそ奴らに差し出すか?」

「いえ、差し出すのも危険だと思います。それは最終手段ですね…。」

 皆、好き勝手に文句を連ね、もはやクリスの味方は一人も居ない。

「こうなった以上は一蓮托生です。クリス、貴女には役立っていただきますからそのつもりで居て下さい。」

「はぃ……ですぅ。」

 クリスは視線を合わせることも出来ず、俯いたままかろうじて返事をした。

 みんな覇王の槍への感心を無くし、この逃避行に疲れて仲間の輪も乱れに乱れている……ように振る舞っていた。

 そう、これは演技なのだ。

 心配をかけたが安心していい。俺達のチームワークはここに来てなかなかいい具合に機能している。

 

 前回、忍者達が立ち去った直後の僅かな時間に俺は今回の作戦を皆に伝えた。

 あの時点で奇襲に失敗した奴らが俺達の疲労を誘う策に出るのは読めていたので、作戦目的は奴らを撒く事に絞られた。

 しかしただ撒くだけでは不十分だ。

 奴らに誤解を与え、油断を誘うことも、今後また見つかったときのことを考えれば重要だ。

 だからあるタイミングで、敵を撒いたと錯覚し、不仲になると言う演技を行うように指示した。

 そのタイミングとは、敵を撒けそうな場所に着いたときに俺がこっそりサインを出す手筈になっていた。

 現段階で俺達は忍者達をまだ撒いてはいない。

 今も5人ほどの見張りが俺達にピッタリと張り付いている気配はある。

 俺達は休み無く追われ続け、疲労は限界に達しかけており、このままでは追い詰められるのは時間の問題だった。

 そろそろ何か打開策を講じなければ、この先奴らを相手するだけの体力は残らないだろう。

 そんな時、俺は幸運なことに奴らを撒くための絶好の場所を見つけたのだ。

 小さな岩山にぽっかり口を開けている小さな洞窟。

 俺はそこで作戦を実行に移すことを決心した。

「キッド、敵も撒けたみたいだしみんなも疲れている。あの洞窟でキャンプを張ろう。」

「え……?あ…ああ…。」

 キッド達にはこれからの作戦内容はまだ話していない。

 と、言うのも作戦内容自体ここで思いついたものだから当然のことだ。

 それでもキッド達は俺に疑問を投げかけることなくついてきてくれる。

 以前のゲルマとの一件の功績もあったの事なんだろうけど、こいつ等のそんな柔軟さには本当に助けられる。

 こいつらにも先輩冒険者として、男としてのプライドもあったことだろう。

 しかしこいつ等はそれに(こだわ)らず、俺を認めてくれる。

 こいつらも組んだ当初は色々不安もあったろう。

 なにしろ駆け出し冒険者を2人、しかも女を連れて行こうってんだから。

 しかし俺達の能力を知るに連れ、引率者気分だった心をあっさり入れ替えて頼ってくれる柔軟さ。

 こいつ等は短時間に的確に味方の能力を評価し、認め、信頼できる力を持っている。

 冒険者にしては珍しいケースだ。

 見た目以上の才能を秘めていた俺やマリアにとっては絶好のパートナーだったと言えるだろう。

 

 俺達は小さな洞窟に入った。皆が荷物を下ろす。

 しかしさすがに皆、不安げな顔だ。

 自ら行き止まりに逃げ込んだようなものだから仕方ない。

「テイファ。こんな所に入り込んでどうやって敵を撒くんだ?」

 洞窟内で敵の視線も通らないのを確認してキッドが訊いてきた。

「ああ。これから俺を残して薪集めに行って貰う。」

『ま・・薪集め?』

 キッドとマイケルの声が見事に重なった。

「もちろんただの薪集めじゃない。いいか?良く聞けよ……?」

 俺は声を潜めて作戦を伝えた……。

「なっ…!?んな……。」

「テ…テイファさん、だ…大丈夫なんですか?」

「心配いらん。前例もある。合流地点は間違えるなよ?」

「は…はい。わかりました。それではクリス、出ましょうか。」

「はいですぅ。」

 俺達は急ぎ、用意をすませて作戦を実行に移した……。

 

 

「目標、洞窟に入ります。」

「うむ…。キャンプを張るつもりのようだな…。」

「どうやら本当に我々を見失ったようですね。奴らも相当疲れが来たと言うところですか。」

「よし、本陣に報告を。今夜襲撃する。」

「了解。」

 テイファ達を見張っていた忍者達は5人居た。

 そのうち2人が報告のために本陣へと引き返していく。

「あ…。2人洞窟から出てきました。マイケルという男とメイドの娘です。荷物は置いて出てきたようですね。」

 洞窟から軽装のマイケルとクリスが出てきた。そして所々落ちている小枝を拾い集めていく。

「つけますか?」

「…いや、今行って奴らに感付かれると逃げられる恐れがある。薪拾いならばそう遠くへは行かないだろうしな。」

「了解です。」

 そしてマイケル達はそのまま森の中へ姿を消していった。

「薪拾いか。本格的に居着くつもりのようだ。む…。また2人出てきたぞ。」

 マイケル達が視界から消えた後、今度はキッドとマリアの2人が洞窟から出てきた。こちらも大きな荷物は持たない軽装だ。

 キッドは手にクロスボウを持ち、小さめのザックを背負っていた。

 その格好からは野鳥などの狩りに向かうものと判断できる。

「キッドとマリアですね。1人だけ残って荷物番か。」

「そのようですね。どうします?踏み込みますか?」

「待て。本陣からの部隊を呼び寄せてから夜に襲撃する。焦らなくていい。」

「了解しました。」

 やがてキッド達も視界から消え、辺りはひっそり静まり返った。

 10分、20分、30分。

 彼等が帰ってくる気配はない。

 40分、50分、そして1時間が過ぎた。

 それでも帰ってくる気配はなかった。それどころか洞窟の中に残ったテイファにも全く動きがない。

 部隊長に疑念がよぎる。

「少しおかしくないですか…?」

「うむ…。女は眠っているとしても、薪集めに行った連中がまだ一度も戻らないのはおかしいな……。まさか…。」

 部隊長は直ぐさま仲間の忍者の1人に遂に様子を見てくるよう、命令を下した。

 そして……。

 様子を見に行った忍者からは既にもぬけの空であるというサインが送られた。

「馬鹿な…。どうやって抜け出したというのだ……!?」

 即座に洞窟に入り、脱出経路を調べるがそれらしいものは全くないどころか、人が居た痕跡さえ残っていなかった。

 

 

「あ…。マイケルさん、キッドさん達来ましたですぅ☆」

「キッド。どうにか無事に合流出来たようですね。敵はどうですか?」

 マイケルは森の斜面にクリスと腰かけてキッドとマリアの2人を迎えた。

「ふぅ…。奴ら追ってくる気配はなかったが……。とにかくここも早く離れないとな。」

 キッドはそう言いながら背負っていたザックを慎重に下ろした。

「それにしてもこのポーチに3人分の荷物を詰め込んで歩くというのもなかなか大変でしたよ。」

 マイケルの視線の先にはテイファが小物入れに使っていたポーチがあった。ウルバック仕様の物だ。

「テイファさん本当に大丈夫でしょうか……?」

 マリアは座り込みながらも心配そうに俯いた。

「本人は大丈夫だと言ってはいたけど……。

 さて、早いところ荷物を片そう。出来るだけ距離を稼がにゃならんからな。よーし、もういいぞぉ。」

 そう言ってキッドはザックの口を開けた。

「ぷはぁっ!」

 キッドのザックから最初に出てきたのは何とテイファだった!

「テイファさん、大丈夫でしたか?」

 マリアは出てきたテイファの元に真っ先に駆け寄る。

「大丈夫だって。この中にペットを飼っていた冒険者も居たって話しただろう?」

「だ…だけどやっぱり心配しますよぉ…。」

「マリア、キッド。荷物を出しましたよ。」

 マイケルの持っていたポーチの中からはマリアの荷物とキッドの荷物、そしてマイケル自身の荷物が詰め込んであった。

 そしてキッドが担いでいたザックはテイファの荷物用のザックだったのである。

「今のところ、上手く行ったな。」

「いや、ここからが正念場さ。いかに痕跡を残さずに森に紛れるか。そこにかかってくる。」

 皆がそれぞれの荷物を担ぎ上げる。

「テイファ、マリア。辛くなったら荷物くらい担いでやるから踏ん張ってくれよ。」

 キッドが笑みを浮かべて言う。クリスが含まれないのはクリスの荷物は非常に軽いからだ。

「ああ。いざというときには頼りにさせて貰うよ。」

「よし、出発しよう!!」

 キッドの号令で5人はまた歩き始めた。

 疲労感は収まらないが、敵の監視を切り抜けたという安心感が歩みを軽くする。

 そして彼等は森の中に姿を消していった。



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